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治療例紹介「インプラントは時間もかかるものだし、何回も手術をしないといけないんですよね?」
通常のインプラント治療は半年程度待たなければいけません。さらに手術も一般的には2回法を用いた場合は、計3回の手術をする必要がありました。
しかし、「抜歯即時インプラント」法だと治療期間を大幅に短縮でき、手術回数もわずか1回でインプラント治療を終えることができます。
今回ご紹介する症例は、歯を抜歯すると同時に、インプラントを埋入しました。そして良好な治癒経過をたどっております。「抜歯即時インプラント」法がどんな場合に適応になるのか、その場合の欠点はあるのか?をお伝えします。
*今回の内容は若手歯科医師向けの内容を含みます
通常、抜歯をしてからインプラント治療が終わるまでに半年程の時間がかかります。
抜歯後に歯ぐきの治癒と骨が再生する為に2ケ月待ち、その後にインプラントを埋める1次手術をします。そして、インプラントが骨とくっつくのを3ケ月待って、インプラント上部にネジを取りつける2次手術をします。
そうすると、抜歯の時に小手術をして、2ケ月後にインプラントを埋める手術をし、さらに3ケ月後にインプラントにネジを取り付ける手術の計3回の手術が必要でした。
抜歯をしてから、2次手術までをたった1回で終える方法です。抜歯即時埋入とも呼ばれます。
それでは実際に当院で「抜歯即時埋入」でインプラント治療をされた方をご紹介します。
左下の差し歯がボロッと取れてしまった。と来院された30代の女性です。
取れてしまった原因は虫歯で、歯ぐきの下まで大きく虫歯が広がっていました。歯を残すことが困難で、残念ながら抜歯となりました。
今回は「抜歯即時インプラント」の条件を満たしていた為、抜歯した当日にインプラントを埋める治療を計画しました。
抜歯の際に特に気を付けなければいけないのが、骨にダメージを与えないことです。インプラントを埋める大事な骨にダメージを与えないように丁寧に抜歯をします。
インプラント用の抜歯の際は「ラクサツール」という骨の組織に侵襲を最小限にしたインプラント抜歯用の専用器具を使用します。
骨にダメージが加わると、この後のインプラント治療に悪影響がでてしまします。時間をかけてでも丁寧に抜歯をすることがポイントです。
今回はさらに「分割抜歯」で歯を2つに切断してから抜歯をしました。奥歯は複根歯といって根が数本あります。それぞれ埋まっている方向が異なるので、スムーズな抜歯をする為には根をいっぺんに抜くのではなく1本ずつ抜くのが理想的です。本症例では2分割の分割抜歯をしました。
抜歯の後におこなうのが「肉芽掻把」です。抜歯した骨の周囲には病原性細菌がへばり付いています。病原性細菌を「肉芽」と呼びます。専門用語で(肉芽腫様組織:Granulomatous Tissue)。
肉芽が残っていると、インプラントがうまく固定しなかったり、骨や歯ぐきの治りが悪くなります。ですので、徹底的に異物を除去することが大切です。
ポイントは骨がしっかり肉眼で見えるまでキレイにすることです。丁寧に抜歯をして、周りの骨と歯ぐきを傷つけないように。そして異物をしっかりと除去した状態です。
次にインプラントを埋めるための穴をドリルで掘ります。この場合は歯槽中隔と呼ばれる「抜いた歯の真ん中の骨」を狙います。
インプラントを固定する骨は、わずか3mmの幅しかありません。1mmでも位置が狂ってしまうと抜歯即時埋入は失敗に終わります。非常にシビアな治療法です。
注意しないといけないのは、ドリルが滑らないようにすることです。硬い骨にドリルをすると、必ずドリルは柔らかい場所に流れてしまいます。真っすぐにドリルを進めたつもりが、斜めに掘ってしまっていた、ということにならない様に気をつけます。
当院は、全てのインプラント手術に「インプラントガイド」を使っております。インプラントガイドを使うことで位置の狂いを最小限にする工夫をしております。
インプラントガイドで適切な位置にドリルを進めます。
次に気を付けなければいけないのが、骨の硬さです。抜歯即時インプラントを成功させるためには、初期固定が大事です。初期固定とはインプラントを埋めた時に「どれ位の安定性があるか」の指標です。
当院ではあらかじめ、CT撮影をし全てのインプラント症例で「インプラントシュミレーションソフト」で分析しております。
インプラントシュミレーションソフトでインプラントを埋める場所の「骨密度」も分析します。骨が柔らかいのか硬いのか?をあらかじめ診査することで、治療計画が変わってくるからです。
今回は緑色のD3が多く見れられるので、やや柔らかめの骨と分析しました。柔らかめの骨の場合はのポイントは、最終インプラント直径よりも1段階小さめのドリルを使う。ということです。通常通りの大きさのドリルを使うと骨とインプラントがゆるくなってしまし、固定が得られなくなってしますので注意が必要です。
初期固定が得やすいインプラント(フィクスチャー)の選択も重要です。
1. 先端径が細いテーパー型
2. セルフタップ機構で深いスレッド
インプラントは同じではありません。それぞれ、利点や欠点があります。治療毎に合ったインプラントを選ぶことで、良い結果をだすことができます。
予定の位置に、ピタッとインプラントを埋めました。ど真ん中の理想的なポジションです。
そしてISQを測ります。「70以上」が高い安定性を得られる為、1回法が可能になります。今回は「79」で非常に高い安定性が得られました。
今後、インプラント安定指(ISQ:implant stability quotient)についての記事もブログでアップ予定です。
予定通りの位置にインプラントを埋め、周りの隙間を「骨補填材」で埋めていきます。
非吸収性骨再生用材料の「Bio-Oss」を使用します。その上部に、患者さん自身の血液より採取したCGFをメンブレン代わりに置きます。
CGFは血液を遠心分離にかけ、血小板や成長因子を多く含んだフィブリンをゲル状にしたものです。患者さん自身の血液細胞を濃縮することで、骨や歯ぐきの治癒を早める事ができます。さには術後感染の危険性が少ない利点があります。
CGF、AFGについては、別の機会に解説いたします。
インプラント手術後2週間に抜糸をした時の様子です。歯ぐきも治り、良好な治癒経過です。
抜歯即時埋入の利点は、骨の吸収を最小限に抑えれることです。
歯を抜くと、周りの骨がだんだんと吸収します。そして、歯ぐきも痩せてきてしまします。特に「義歯(入れ歯)」を使用されていた場合は、骨の吸収が顕著です。骨や歯ぐきがない場合は、骨造成や歯ぐきの移植をする必要があります。
しかし、抜歯即時埋入であれば、骨や歯ぐきが吸収する前にインプラントを埋めることができる為、身体への負担が最小限で治療できます。
さらに術後1か月です。しっかり歯ぐきも治ってきております。
通常、抜歯後に角化歯肉が喪失してしまいます。しかし、インプラントを即時埋入し、骨補填材で補うことで角化歯肉を十分確保できました。
角化歯肉が十分量あることで、歯ブラシがしやすくなります。結果として、インプラントの長期安定を計ることができます。
角化歯肉の量が少なければ、FGG(遊離歯肉移植術)をおこないます。インプラントを長持ちさせるためには、メンテナンスがしやすい環境を作ることが大切です。
この後、インプラントを光学印象で型取りします。
インプラントの上部構造物をジルコニアセラミックで製作しました。
シュミレーション通りの、ベストな位置にインプラントを入れることで、噛み合わせも安定させることができます。
抜歯即時埋入法ですと、抜歯とインプラント埋入が同時に可能です。その為、手術回数を大幅に減らすことができます。さらには2次手術も必要ありませんので、歯が無い期間が非常に少なくなります。
3つの良い点(メリット)をお伝えします。
1. 治療期間と回数が大幅に短縮
2. 歯ぐきを切る必要がない
3. 骨と歯ぐきの吸収を最小限に抑えれる
今回の患者さんの場合、通常、歯を抜いてからインプラントの2次手術が終わるまでに、半年かかります。さらに手術の回数も3回必要です。
抜歯即時インプラントですと、わずか1日で終了です。さらにメスを使い、歯ぐきを切る必要もなく、術後に大きな腫れや痛みもありません。
全ての治療で可能ではありません。どの様な場合が治療の適応症でしょうか。
1. 初期固定を得られる骨量
2. 急性炎症がない
まずは、骨が完全に吸収していないことが絶対条件です。骨がないとインプラントを固定することができない為、初期固定を得られるだけの骨量が残っていることが必要です。
骨がない場合は骨が回復するまで待つ、もしくは骨を作る治療をしなければなりません。
インプラントを決定するタイミングが遅れてしまったが為に、骨造成や歯肉移植が追加で必要になる場合もあります。インプラントを検討されている方は、一度早めに担当医の先生と相談されることをお勧めします。
急性炎症がある場合も、先に消炎処置をして急性炎症を抑えます。
1. 熟練した歯科医師の技術
2. 骨量など多くの条件がある
3. 細菌感染のリスク
1. 熟練した歯科医師の技術
一番目は、治療ができる歯科医院が限られている点です。通常のインプラント手術よりも歯科医師が気を付けなければいけないポイントが非常に多くあります。埋入方向、埋入深度、インプラントの選択、感染対策、縫合法等、たった1つでも失敗があると全てうまくいきません。熟練した歯科医師にしか難しい治療法です。
例えばインプラントの埋める穴の位置です。今回はわずか3mmの骨の幅に直径5mmのインプラントを埋めました。1mmでもズレてしまうと固定ができません。
さらにインプラントの角度もズレてしまうと、今後の予後が悪くなります。
2. 骨量など多くの条件がある
二番目は、骨や歯ぐきの状態です。初期固定を得られる骨量があるかどうかは、必ずCTを撮影して下さい。
歯ぐきが裂開や開創している場合は、適応症ではありません。無理に抜歯即時埋入をしてはいけません。適応症かどうかをしっかりと判断することも、我々、歯科医師の重要な役割です。
肉芽組織の掻把が完全にできない場合も、適応症ではありません。下顎神経の走行や、上顎洞に十分気を付けて下さい。CTを術前にしっかりと確認をして、プランニングも業者にお任せするのではなく、歯科医師自身で責任を持っておこないます。
3. 細菌感染のリスク
術後に感染しない配慮も必要です。歯周病治療を済ませておくことは、守って下さい。歯周病を放置した状態で、インプラントを絶対にしてはいけません。
可能であればCGFやAFGといった、自己血由来の材料を使うと安心です。
インプラントの手術器具が滅菌されている事、術中の感染対策がしっかりなされていることも重要です。器具の使いまわしは以ての外です。
今回は抜歯即時埋入についてお伝えしました。
通常のインプラント治療より、治療期間と回数を短縮できる素晴らしい治療法です。しかしながら適応にはいくつかの条件があります。
まずは、ご自身が適応かどうかを診査診断することが大切です。かかりつけの歯科医院でCTを撮影し、安心安全なインプラント治療を受けて下さい。
山内歯科多治見おとなこども矯正
歯科医師 山内敬士